「稼いでいるはずなのに、お金が残らない」の正体
案件がひっきりなしに入って、制作スケジュールが埋まっている。クライアントからの評価も悪くないし、単価も少しずつ上がってきた。それなのに、月末に通帳を見ると思ったほどお金が残っていない――そんな経験はありませんか。
原因の多くは、報酬の入金も経費もプライベートの支出も、すべて1つの口座で管理していることにあります。いわゆる「丼勘定」の状態です。入金された報酬からAdobe CCの年間契約を払い、外注先への支払いも同じ口座から出し、生活費も同じところから引き落とす。これでは本当の利益がいくらなのか、通帳を見ただけではわかりません。
クリエイターの場合、案件ごとに入金のタイミングがバラバラで、報酬の支払いサイトも30日〜60日と長めになりがちです。そのうえ1つの口座で全部管理していると、今月の残高が「利益」なのか「来月払う外注費の分」なのかすら判断がつかなくなります。
この問題を解決するシンプルな方法が「口座の使い分け」です。
クリエイターが持ちたい4つの口座
口座を目的別に分けると、お金の流れが見えるようになります。おすすめは以下の4つです。
| 口座 | 役割 | 入出金の例 |
|---|---|---|
| 1. 売上・経費用 | 日々の事業資金 | クライアントからの報酬入金、外注費・ソフトウェア利用料・通信費の支払い |
| 2. 納税用 | 税金のプール | 消費税・所得税・住民税の積み立てと納付 |
| 3. 将来投資用 | 制作環境の強化資金 | PC・機材の買い替え、スキルアップ講座、制作チームの拡大準備 |
| 4. 生活費用 | 個人の生活費 | 個人事業主の生活費引き出し、法人役員の報酬受取 |
ポイントは、1と2は「今の事業」に関わるお金、3と4は「将来」に関わるお金、という分け方です。できれば1・2と3・4で別の金融機関にすると、うっかり手をつけてしまうリスクが減ります。
クリエイターは案件ごとの入金タイミングがバラバラなので、報酬が振り込まれたらまず売上・経費用口座に入金し、そこから各口座へ振り分ける流れを作っておくとスムーズです。
口座を分けるとこんなメリットがある
口座を分ける一番のメリットは、売上用口座の残高がそのまま営業利益に近い数字を示してくれることです。毎月の入金合計が売上高、出金合計が経費。その差額がプラスなら黒字、マイナスなら赤字と一目でわかります。
ほかにも、こうした利点があります。
- 確定申告が早く終わる — 事業の入出金だけが記録されるので、freeeやマネーフォワードへの取り込みがスムーズ
- 税務調査で困らない — 調査時にプライベートの支出を見せなくて済む
- 融資審査に通りやすい — 資金の流れが整理されていると、金融機関の評価が上がる
- 納税で慌てない — 納税用口座にプールしておけば、確定申告の時期に資金不足にならない
- 外注費の支払いに余裕が持てる — 経費用口座に十分な残高があれば、下請先への支払いを遅らせずに済む
納税用口座にいくら積み立てるか
クリエイターの確定申告で見落としがちなのが、消費税と源泉所得税の準備です。とくに消費税は、赤字の年でもクライアントから預かった分を納める必要があります。
また、デザイン料やイラスト制作費は源泉徴収の対象になるケースが多く、クライアントが報酬から差し引いて納付するため、入金額が請求額より少なくなります。確定申告で精算すると還付になることもありますが、逆に追加で納付が必要になる場合もあるので、余裕を見て積み立てておくのが安全です。
消費税率10%の現在、ざっくりした積み立て目安はこうなります。
| 月の税抜売上 | 預かる消費税(10%) | 外注費等で払う消費税 | 差引プール額の目安 |
|---|---|---|---|
| 50万円 | 5万円 | 約1.5万円 | 約3.5万円 |
| 100万円 | 10万円 | 約3万円 | 約7万円 |
| 150万円 | 15万円 | 約5万円 | 約10万円 |
※簡易課税制度を選択している場合、クリエイターの仕事の多くは第五種事業(サービス業)に該当し、みなし仕入率50%で計算します。売上の消費税額の半分がプール目安です。2割特例を使えるケース(2026年分まで適用可能)では、売上の消費税額の2割が納税額になります。
クリエイターは月によって売上の波が大きいので、「毎月定額を移す」よりも「報酬が入金されるたびに一定割合を移す」方が現実的です。たとえば、入金額の10%を納税用口座に振り替える、というルールにしておけば、忙しい月は多めに、閑散月は少なめに自動で調整されます。
収入の波が大きいクリエイターならではの工夫
案件ベースで働くクリエイターにとって、収入の波は避けられません。繁忙月に50万〜100万円入ることもあれば、閑散月はほぼゼロということもあり得ます。口座を分けていても、この波にどう対応するかが重要です。
繁忙月にやること
- 売上・経費用口座に入金されたら、納税用と将来投資用への振り分けを「先に」済ませる
- 余裕がある月こそ多めに積み立てる。閑散月の不足分をここで補う
閑散月にやること
- 振り分け額を減らしてもいいが、ゼロにはしない。少額でも習慣を維持する
- 売上・経費用口座の残高が一定額を下回ったら、将来投資用口座からの一時的な補填を検討する
この仕組みを作っておくと、「今月は入金が少ないけど、納税用口座にはちゃんと貯まっている」という安心感が生まれます。
個人事業と法人で少し違うところ
個人事業主のクリエイターの場合、事業のお金=自分のお金なので、生活費用口座への移動は「事業主貸」として記帳するだけで済みます。
一方、法人化して制作事務所を設立した場合は注意が必要です。将来投資用口座や生活費用口座のお金も、あくまで法人の資産です。代表者個人に移すには役員報酬として毎月定額で支払う「定期同額給与」のルールを守る必要があります。期の途中で金額を変えると、その変更分が経費として認められないケースがあるので、金額の変更は事業年度の開始から3カ月以内に行いましょう。
クリエイターは収入の波が大きいため、法人化する際の役員報酬の設定には慎重な試算が必要です。繁忙月の売上を基準にすると閑散月に資金繰りが苦しくなり、閑散月に合わせると税負担が重くなります。年間の売上見込みから逆算して、毎月無理なく払える額を設定するのがポイントです。
参考:当事務所の口座運用例
実際に私自身がどう口座を使い分けているか、参考までにお伝えします。
事業用口座(日常の業務) はメガバンクをメインに、サブとしてPayPay銀行を使っています。PayPay銀行を選んだのは、もともとペイジー(Pay-easy)で社会保険料を納付できたのが理由です。今はネット銀行でもペイジーに対応するところが増えており、PayPay銀行のほか、楽天銀行、住信SBIネット銀行、GMOあおぞらネット銀行などが利用できます。
納税用口座 は、正直なところ私の場合はなくても回っています。利益の規模によっては別口座にする必要はなく、売上・経費用口座の残高で十分まかなえるケースもあります。
将来投資用口座 は、意図的に作ったというよりも、ネット銀行のスマホアプリで預金の引き出しや振替が手軽にできるので、結果的にそういう役割になりました。使い勝手の良さでなんとなく貯まっていく、というのが実情です。
役員報酬の受取口座 は、法人をお持ちの場合は必須です。法人口座(メガバンクやネット銀行)とは別に、個人名義の口座を1つ用意してください。法人と個人のお金を同じ口座で管理するのは絶対に避けましょう。
ちなみに私の法人はメガバンクの法人口座を持っておらず、PayPay銀行の法人口座だけで運用しています。法人のネット銀行はPayPay銀行のほか、あおぞら銀行も使い勝手がいいので、どちらでも問題ありません。
もうひとつ、好みが分かれるかもしれませんが大事だと思っていることがあります。事業をしばらく続けていると、毎月の運転資金はだいたい読めるようになります。残高がマイナスにならないよう気をつけつつ、事業用口座には最低限の残高だけ残して、余裕資金は将来投資用口座に移し、株式で運用するようにしています。
事業家であれフリーランスであれ、自分の時間やお金をどう投資して運用するかは、お金がないうちから考えておくべきです。労働収入だけの事業、あるいは自分の事業だけでは限界があります。株式市場に自分のお金のポジションを持っておくと、世の中の企業の動きや経済の流れに敏感になれます。この感覚は、機材への投資や制作チームの拡大といった判断にも必ず役立ちます。
少額でもいいからとにかく始めて、とにかく続ける。ずっとやらないのが一番よくありません。時間を味方につけて複利で増やすという発想を、創業当初から持って20年続ける。これが私の実感として、極めて重要だと考えています。
当事務所のサポート
「口座は分けた方がいいとわかっていても、案件ごとに入金タイミングがバラバラで、どう整理すればいいかわからない」という声をよくいただきます。当事務所では、クリエイターの収入パターンに合わせた口座設計のアドバイスから、クラウド会計との連携設定、毎月の資金繰りチェックまでサポートしています。
まずはお気軽にお問い合わせください。現在の通帳をお持ちいただければ、その場で改善ポイントをお伝えします。
